月照らす砂浜 第1話

 月に照らされた日本海、静かな砂浜に響く波音。
 暗闇に浮かぶ船の灯りをボンヤリ眺めながら、僕とヒカリは歩いていた。ほかには誰も居ない。
「もうこんな時間なのに暑いねー!」
 ヒカリは無邪気にそんなことを言いながら、砂浜を駆け出す。走ると余計に暑くなるのに…。でも確かに今日は暑いな。もう午前1 時だというのにじっとしているだけで汗が吹き出す。熱帯夜だ。

 

「疲れちゃったー!ねえ、ここに座って休もうよ」
 言いながら、ヒカリは既に砂の上に腰掛けている。
「お団子遊びしよう!私はママで純也がパパね!」
「パパーお弁当出来たわよー今日もお仕事頑張ってね!チュッ」

 ヒカリが妙なことを始めた。まさか20歳にもなって泥団子でおままごとをするとは …。昼間の不機嫌などなかったかのように、楽しげに泥団子を丸めている。子供まで登場してきた。どうやら女子らしい。

「ちーちゃんは幼稚園に好きな男の子いる?えっ、パパ?パパはダメよ!パパは私のダーリンなんだからね!幼稚園で誰かカッコ良い男の子捕まえてきなさいねー」

「……ヒカリ、彼氏おるがん。そんなこと言っとったら幸彦が嫉妬するよ」
「えー?幸彦なんてどうでもよくない?だよね、ちーちゃん」
 娘に話しかけながら笑ってはいるが、昼間のことを思い出したのかまた少し機嫌が
悪くなってきたようだ。


 僕と幸彦は二人で音楽を作っていた。今までのインスト系だけでなく、そろそろ歌物も作りたいねと考えていた矢先、幸彦が彼女のヒカリを連れてきた。僕はグループ内に恋愛を持ち込むのは反対だった。しかし、ヒカリは歌が上手く性格も明るく、何より新しい音楽を作りたくてウズウズしていたので、懸念はあったがメンバーとして受け入れた。



 おままごとも終わり、また歩き出した。
 砂浜が下り坂になっている。僕はヒカリの手をとった。「ありがとう」ヒカリは下り、手を離した。もう少し手をとっていたかったなと思う。
 またヒカリが駆け出した。今度は波と戯れている。月に照らされたその姿がとても綺麗でつい見惚れてしまう。抑えなくちゃ、抑えなくちゃ…。